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「補習教育「初習物理」「初習生物」の実施」
佐藤正明 総合教育研究機構・教育運営委員長 (2006.10.23掲載)

初習物理・初習生物 総合教育研究機構では、今年度から、物理・生物についての補習教育を開始しました。補習教育導入の理由や今年度の受講状況などについて総合教育研究機構・教育運営委員長の佐藤正明教授に聞きました。ーまず,理科の補習教育が必要な理由からお聞かせください。 現在、大阪府立大学の理系学部に入学してくる学生の大半は、高等学校において物理、化学、生物の3科目の中から2科目を選択し、大学入試センター試験および一般選抜入試で合格点を取ることを目標に勉学していますので、高校の物理、化学、生物の3科目をすべて修得している学生は極めて少ないのが現状です。なかでも、化学は準必修の扱いであるのに対して、物理と生物は選択科目でどちらか一方だけが履修されていることが多く、入学後に学生が所属する学部学科の専門教育あるいは専門基礎教育において物理学や生物学が重要な科目である場合、高等学校において物理や生物を修得してこなかったことは大きな弊害となります。そこで、年度の初め(4月、5月、6月初旬までの期間)に「初習生物」と「初習物理」の補習教育を実施することにより、高等学校の教育において不足する部分を補い、大学における専門基礎教育や専門教育への円滑な接続を計画しました。
ー授業の概要はどのようなものでしょうか。 高等学校の生物、物理で学ばなくてはならない要点と、大学の生物学、物理学を学ぶために必要な知識と動機付けを補習授業「初習生物」、「初習物理」で教えて頂くことにしました。

「初習生物」
辻本 昭信 先生(教科書:高等学校「生物」I, 「生物」II 第一学習社)
土曜日 午前10時〜12時
授業回数7回(平成18年4月15日、5月6日、13日、20日、6月3日、10日、17日)
【授業内容】細胞の働きと生物体の形成、生体内の化学反応、呼吸と光合成、細胞膜と物質の出入り、遺伝の法則と遺伝子、DNAの複製とはたらき、遺伝子発現とタンパク質・遺伝子操作

「初習物理」
黒坂 峻 先生 (プリント授業)
土曜日 午後1時〜3時
授業回数7回(平成18年4月15日、22日、5月6日、13日、20日、6月3日、10日)
【授業内容】変位・速度・加速度の定義、等加速度運動、重力による落下運動の加速度、慣性の法則、作用・反作用の法則、運動方程式、仕事・仕事率、運動エネルギーと位置エネルギー、力学的エネルギー保存の法則、力積と運動量、運動量保存の法則ー学生の申請状況・受講状況はどうでしたか? 学部別の出席回数と学生数との関係を下の図1,図2に示します。延べ人数については初習生物が518名、初習物理が519名でした。羽曳野キャンパスの2学部からも多数の参加申し込み(初習生物21名、初習物理15名)がありましたが、通学上の困難さから実際に授業に出席した学生数は少なかったようです。

初習生物受講状況

初習物理受講状況
 7回の補習授業の中で5回以上出席した学生に対して、修了証書(「初習生物」58名「初習物理」57名)が授与されました。学部、学科別の出席率と修了証書受賞者数については表2,表3に示しています。

初習生物修了者数

初習物理修了者数
ー最後に、補習授業の効果と今後の課題についてお聞かせください。 平成18年度(前期)に実施した補習授業がどの程度に効果があったのかを正しく評価するのは正直なところ難しいですね。平成18年度の前期に開講された専門基礎科目「生物学I」、「物理学I」の成績を前年度のものと比較するのが一般的かも知れませんが、本年度は「生物学I」の不合格者数が平成17年度の場合と比べて激減しているのに対して「物理学I」の不合格者数はかなり増加しており、合格基準が変わったと推察されますので、前年度との比較はあまり意味がありません。そこで、全体の不合格率と補習授業を受講した学生の不合格率とを比較することで、補習授業の効果を考えてみることにします。

初習生物について
 「生物学I」を受講した工・生命環境・理学部の1年次および2年次学生(再履修クラスは除く)の総数は310名で不合格16名。全体の不合格率は5.2%でした。一方、「初習生物」を受講した122名の中で93名が「生物学I」を受講し、不合格はわずか4名、不合格率4.3%、全体の不合格率よりも低いという結果となりました。

初習物理について
 「物理学I」を受講した工・生命環境・理学部1年次学生の総数は726名で不合格88名、不合格率12%でした。生命環境・理学部の1年次学生に限定すると、不合格は26名、不合格率14%でした。「初習物理」を受講した生命環境・理学部の1年次学生144名の中で89名が「物理学I」を受講し、不合格となった学生は17名(残りの不合格9名は「初習物理」を受講していない)、不合格率19%でした。数字だけを比べると「初習物理」を受講した学生の不合格率の高さが目立ちますが、この学生たちは高等学校で「物理」をほとんど学んでこなかったことを考えると、かなり善戦しているのかもしれません。

 補習授業の効果を厳正に評価するためには、補習授業の前後で試験などを行うことなどが必要でしょうが、自由参加の形式で、わずか7回のプログラムの中で試験を行うことは不可能でした。補習授業の最終回でアンケート調査を実施して学生の感想を尋ねたところ、当初の受講目的が達成されたかどうかについては約8割、総合評価については約9割の学生から比較的好意的な評価が得られたことは、勇気づけられる結果でした。
 今後は、補習授業の中身や回数は当然のこと、学生のレベルに合わせたクラス分け、開催曜日、時間帯、場所などについても考えなくてはいけないでしょう。また、回が進むにつれて出席人数が減少してくる傾向を回避するための方法論についても解決策を見いださなくてはいけません。
※参考ページ:「補習教育」実施報告