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「初代機構長予定者、宮本勝浩教授に聞く」
(2004.11.22掲載)

特集第1弾として、総合教育研究機構の初代機構長の予定者である、宮本勝浩・現大阪府立大学経済学部長に、総合教育研究機構の果たすべき役割や(新)大阪府立大学の進むべき方向などについて、語っていただきました。

(※本記事は、総合教育研究機構設立前の2004 年度に掲載されたものです。)-先生は大学外でも多方面でご活躍されていますが、大阪府立3大学の統合再編について、学外者の印象や理解についてどうお感じになられていますか。国立大学関係者は、法人化について公立大学より先行しています。それで、法人化により法人化以前と比較して大きな変革を受けていることから、大阪府立3大学の統合や法人化は国立大学以上の変革になると予想しています。国立大学は、文部科学省からの交付金の削減やこれまで国が負担していた経費が法人へ負担転嫁されたことなどにより、教員の研究費の大幅なカットや人員削減に直面しています。大阪府が財政難にあることから、新生大阪府立大学も大きな改革に直面するであろうと予想しています。
公立大学関係者については、大改革を迫られている首都大学東京や横浜市立大学関係者からすると大阪府立大学の改革は小規模であると受け止められている一方で、まだ具体的な改革に直面していない大阪市立大学関係者などからすると、私たちの大学の変革についてはどのような方向に進むのか見守っている状況です。
一般的に、国公立大学関係者は自分たちの大学の大改革に直面しているので、他の大学の変革は参考程度にしか考えていないように思われます。
私立大学関係者は、これまで私立大学において自己責任で行ってきた経営・研究・教育について、新生大阪府立大学がどの程度上手に行うかお手並み拝見という態度をとっています。
関西経済界は、新生大阪府立大学がどういう形で発展するのか現在のところ静観しています。

-総合教育研究機構は大阪府立大学においてどのような役割をはたすべきとお考えでしょうか。これからの大学は、従来の大学のように入口(偏差値や入試の難易度など)だけで評価されるのではなく、中味(教育の質と量など)、出口(就職先、資格、社会へ出てからの活躍度など)も含めて評価されることになると考えられます。したがって、機構のみならず大阪府立大学は全組織をあげて、入口、中味、出口でいい成果をあげるように努力することが必要です。
その中で機構の果たすべき役割は、(1)学生・院生が立派な社会人となるための人間教育をすること、(2)学生・院生が社会的常識・教養、専門的学識をもって社会で活躍できる人材育成のための教育をすること、(3)専門的学識に繋がる基礎教育に努めること、(4)地域に密着し、貢献するための公開講座や住民参加型の授業などエクステンション教育に努めること、(5)教育の質を高めるためにFDの発展に努めること、(6)機構の構成員は、研究者としても、また教育のレベルを高めるためにも、世界的水準での研究に努め、それを教育に還元することなどであると考えています。-総合教育研究機構の共通教育部門(仮称)では、全学の基礎教育や教養教育を担当します。現代における基礎教育・教養教育についてお考えをお聞かせください。数年前に予想されていた大学進学率の伸び率が予想以下に留まり、今後は大学進学率が停滞するであろうと下方修正されました。他方、専門学校の進学率が高まってきています。これは、明治時代以後日本の大学が果たしてきた役割、社会的評価が変わってきたことを意味しています。これは、教育・研究機関としての大学の魅力がなくなったことを意味するのではありません。大学へ進学してくる若者の大学へ来る目的が変化してきたことを意味していると思います。
明治以後昭和の高度成長期までは、大学に入学し教養と専門的学識を身につければ、社会的に高い評価を受け、いい就職先が得られ、定年までいや定年後も安定した生活が手に入れることができました。したがって、努力して大学へ入学することはそれだけの価値があったわけです。しかし、バブル崩壊後、終身雇用制度は崩れ、大企業、大手の金融機関も破綻するケースがあとをたたず、個人の能力・資格が問われる時代になりました。
専門学校では、就職・資格収得を目的とした教育に専念しています。司法試験、公認会計士、税理士、医療関係の資格、情報処理、外国語の会話、公務員などを目的とした若者に人気のある専門学校は、就職・資格収得のみの教育を行っています。さらに、いくつかの専門学校では規程の就学期間の授業料を払えば、就職先が決まるまで無料で何年でも在籍できるシステムを採用しています。大学へ通いながら、これらの専門学校に通っている大学生も多く(いわゆるダブル・スクール)、また大学生で卒業を改めてこれらの専門学校へ入学し直している学生も増えてきています。4年制の大学へきても、卒業後就職先がなくフリーターになる学生が増えている現状では、就職を目的とした若者には4年制の大学よりも専門学校の方が魅力的なのかもしれません。
大阪府立大学の全教員は、このような社会的事実を認識した上で教育・研究に取り組むべきでしょう。もちろん、大学が就職のための予備校化することには反対です。社会的常識や教養と高度な専門的知識を備えた立派な社会人を育成することが大切ですが、社会的ニーズの変化にも目を向ける必要があります。
これからは、人文科学、社会科学、自然科学を網羅する一般的教養教育とともに、人間教育、コンピューターが自由に駆使できるための情報教育、会話ができる語学教育、専門教育に繋がる基礎教育が機構にとって大切ではないかと考えています。-現在様々な大学で教育の質の向上に向けた取り組みがなされています。教育の質の向上についてどのような取り組みが必要とお考えでしょうか。教育の質の向上には、大学を構成する学生・院生・教員・職員全員の意識改革が必要だと思います。
教員はこれまで以上に教育に責任を負う必要があります。例えば、週2回はオフィス・アワーを設ける。採点は、受験生全員に優を与えるような採点ではなく、得点が正規分布するように採点する。授業や指導に関して学生・院生からの評価を受けるなどの改革が必要でしょう。
学生・院生には、講義に出ないで試験に合格すればよいようなことはなくなることを認識させるべきでしょう。成績が悪ければ、留年はするし、奨学金の習得は困難になり、いい就職先は得られないことになります。
職員の人たちはこれらの教育の変革を認識して、成績管理や教育の支援を行っていただくことになるでしょう。
これからは、教育に対して社会的な評価がなされます。アメリカでは、大学に対して専門分野の人々や経済界・OBから評価がなされ、その結果が公表されます。さらに大学内部においては、教員一人一人に対して学生・院生からの評価がなされ、それもオープンにされます。勿論、大学からも個人に対して評価がなされ、それらの評価が年俸に反映されます。
教育の質の向上には、構成員の意識改革とともにシステムの変革も必要です。教員の評価制度の確立、成績評価の正規分布化、就職斡旋制度の改革などが必要でしょう。-大学と地域社会の関係は今後ますます重要となってくると思います。(新)大阪府立大学では、総合教育研究機構にエクステンション・センターがおかれ、さまざまな取り組みがなされる予定と聞いております。大阪府立大学での今後の展望についてお聞かせください。経済学部では、10年にわたって「授業公開講座:関西経済論」のお世話をしてきました。毎週、大阪府民と学生をあわせて1000名以上の出席者を集めましたが、最近は出席者の大部分は大阪府民でした。
大学の目的は教育・研究であり、国際的分野で通用する研究や人材育成に努めるべきです。そして、大学は世界的水準で評価されるべきです。しかし、私達の大学にはもう一つ評価される場があります。大阪府立大学は、大阪府の公立大学です。国立大学でも、私立大学でもない公立大学としての大学のレーゾン・デートルを確立し、地域住民に示し、理解していただく必要性があります。大阪府立大学は公立大学として、国立大学、私立大学以上に地域に教育・研究の成果を還元していく責任があると思います。大学の教員は、象牙の塔に立てこもり研究のみを行っていればいいという時代はすでに過ぎ去ったのです。公開講座、府民参加型の講義、オープンシンポジウム、オープンセミナーなどを行うことは勿論必要なことです。さらに、地域が開催する府民講座や市民講座に積極的に講師として参加していただくとともに、地域の地方自治体の審議会や委員会の委員も務めていただきたいと思います。また、地元の高校との連携も図っていく必要もあります。
地域から理解されない、必要とされない公立大学は、その存在意義を失って行く危険性を持っていると考えるべきです。大阪府立大学は世界的水準で評価される教育・研究を維持するとともに、今後一層地域から必要とされる大学として進んで行くべきでしょう。